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シンクタンクからの眼 2023年7月18日

日韓経済協力の現状と課題 The Current State and Challenges of Japan-Korea Economic Cooperation

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今回は『賢者コラム Wisdom Columns』として、日韓産業研究の著名学者として知られる笠井信幸先生のコラムをご紹介いたします。

日韓経済協力の現状と課題

 日韓経済関係の歴史的背景を鳥瞰すると、日韓両国の経済関係は、戦後の経済発展に伴って密接な協力関係を築き、双方の経済成長に大きく貢献してきた。特に1980年代から2000年代にかけて、日本は韓国にとって主要な投資先かつ技術供給国であった。この時期、韓国の企業は日本の技術力を活用して輸出産業を拡大し、日本も韓国からの生産拠点としての投資によって利益を得ていた。しかし、近年の国際情勢や国内の経済構造の変化により、この関係は次第に変化している。
 最近の日韓経済関係の変化をみると、ここ約十年で日韓の貿易依存度は低下し、日本から韓国への直接投資も減少傾向を見せている。この背景には、両国間の企業競争の激化や分業構造の変化がある。例えば、韓国企業の技術力が向上し、自国内で製品開発や生産が可能となったため、日本企業との依存度が低下してきた。また、2019年に日本が韓国への輸出規制を発動したことは、両国経済にマイナスの影響をもたらし、経済関係の一時的な冷却化を引き起こした。
 経済協力再開の動きは、2023年に入り、両国政府は経済協力の再構築に向けた具体的な動きを見せている。輸出規制措置の緩和に加えて、通貨スワップ協定の再開などが行われ、経済関係の正常化に向けた歩みが進んでいる。これは、国際情勢の変化によって、日韓が互いに協力を必要とする方向にシフトしていることを反映している。
 国際情勢の変化と日韓経済協力の必要性からみると、日韓の経済協力は、国際的な不確実性の中でその重要性が再認識されているといえよう。例えば、コロナ後の経済回復が遅く、中国経済の成長鈍化、米中経済紛争によるサプライチェーン再編など、両国を取り巻く状況は厳しさを増している。また、ウクライナ戦争の長期化がもたらすインフレや資源価格上昇のリスク、さらに深刻化する気候変動など、日韓共通の課題も山積している。こうした環境下で、経済安全保障の観点からの協力は、両国にとって欠かせないものになっている。
 日韓経済協力の具体的な分野としては、日韓は以下のような分野での相互協力と連携が期待されている。
 サプライチェーン分野:導体、バッテリー、希少金属といった戦略的産業において、サプライチェーンを安定化するための協力が必要である。特に、米中対立が深まる中での半導体供給網の再編は、日韓が共同で取り組むべき重要な課題である。
 グリーンエネルギー分野:両国としも気候変動対策として、再生可能エネルギーやクリーンエネルギー技術の開発での協力が求められる。両国は共に化石燃料からの脱却を目指しており、この分野での技術交流や共同開発が期待されている。
 デジタル転換分野:両国はAI、IoT、5Gなどのデジタル分野での協力も重要である。世界経済がデジタル社会への転換を進める中、日韓はこの領域での技術開発を通じて新たな成長の可能性を探っている。
 少子高齢化への対応:少子化と高齢化は日韓共通の社会課題であり、福祉や医療技術の発展における協力の余地が大きい。例えば、ロボティクスやICTを活用した高齢者支援サービスなどでの共同開発が考えられる。
 今後の展望として日韓両国は、多くの共通課題と利益を有しており、相互に協力することで新たな経済成長の可能性を見出せる立場にある。特に、サプライチェーンの安定化、気候変動への対応、デジタル分野での技術革新において、日韓の連携は双方の経済安全保障にも寄与する重要なものとなるであろう。両国が互いに信頼関係を深め、現代の課題に共同で取り組むことが、日韓経済関係の再活性化と未来の成長に向けた鍵となるはずである。
 (笠井信幸、アジア経済文化研究所筆頭理事・東アジア経済経営学会長・SMU特任教授)

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